「アメリカン・スナイパー」の評価・感想・反戦映画なのかプロパガンダ映画なのか、巻き起こった論争

映画「アメリカン・スナイパー」の
評価作品情報感想巻き起こった論争戦争の厭らしさ

「アメリカン・スナイパー」のムビメシュラン評価4

 優秀な狙撃手としてイラク戦争に4度従事したクリス・カイルの自伝をもとにした作品です。キャッチコピーは「米軍史上最多、160人を射殺した、ひとりの優しい父親」でした。

「アメリカン・スナイパー」の作品情報

<日本公開年月日>
2015年2月
<スタッフ>
・監督:クリント・イーストウッド
・脚本:ジェイソン・ホール
<出演>
ブラッドリー・クーパー
シエナ・ミラー
<あらすじ>
 クリス・カイルはテキサス州に生まれロデオに明け暮れる「普通の」青年でした。海軍へ志願し特殊部隊シールズに配属され、恋人タヤと共に幸せな生活を送っていました。9.11アメリカ同時多発テロ事件を契機に戦争が始まり、カイルもタヤとの結婚式の場で戦地への派遣命令が下ります。戦地から帰国するたびに変わっていく夫の姿に苦しみ、人間らしさを取り戻してほしいと嘆願するタヤの願いもむなしく、戦地から帰国するたびにカイルと家族との溝は広がっていくのでした。

「アメリカン・スナイパー」の立ち位置

 本作品が反戦映画なのかそれとも米軍のプロパガンダ作品なのか、保守派とリベラル派の間に大論争が巻き起こりました。クリント・イーストウッド監督自身は「そのどちらでもない」と答えています。しかし、イーストウッド監督の他の作品を考えれば反戦映画であることは間違い無いでしょう。

 

*本作品は実話を基にした作品ではありますが、もちろんこの作品がクリス・カイル氏の全てを物語っているわけではありません。ここからは本作品に登場する「クリス・カイル」という1人のキャラクターとして扱います。

 

「コモン・マン」としてのクリス・カイル

 冒頭、クリスは弟とともにロデオに明け暮れる青年として描かれます。アメリカの田舎に生きるエリートでもなく、かといって底辺の暮らしをするわけでも無いいわゆる「コモンマン(普通の人)」であることを印象付けます。
 その後海軍へ志願したクリスは9.11のアメリカ同時多発テロをきっかけとしたイラク戦争に赴くことになります。イラク戦争ではザルカウィ氏率いるアルカイダが自爆を伴うテロを仕掛けます。時には子供が爆弾を抱えて戦車に近づくこともあります。とはいえ「やらなければやられる」現場ですから、相手が子供であろうとスナイパーであるクリスには重い決断が課されます。命を守るという当たり前の価値観が大きく根底から覆されます。

忘れなくてはいけない「大切なこと」

 米軍が登場する映画の多くで描かれるのは口汚く暴力的に新兵を罵る上官の姿です。これはその先に待ち受ける大きく価値観の揺らぐ出来事に備え、「ひどい出来事」の心の準備をさせるためだといいます。
 祖国のため、祖国に暮らす家族を守るためにいわば「戦争用」の思考回路が出来上がったクリスは目の前でおこった数々の惨劇に心を蝕まれていました。PTSDです。そんなクリスが母国に戻り家族と暮らす生活に馴染めないことは想像に難くありません。帰国するたびに変貌していくクリスに妻タヤの気持ちは届きません。

 やがてクリスは医師の勧めで退役軍人のサポートプログラムに参加し徐々に家族思いの優しい父親の心を取り戻します。その矢先におこった悲劇に絶望的な気持ちになりますが、これが作品を仕上げるためのスパイスでは決してなく、実話であることに胸が締め付けられる思いになりました。

まざまざと思い知る戦争の厭らしさ

 クリスは政治的に特に強い思い入れがあるわけでもなく、猟奇的な性格であったわけでもないごくごく普通の一般市民でした。ただ高い狙撃能力を持ち合わせていたがために戦争で最前線に送り込まれ、味方には「レジェンド」ともてはやされ、敵には「悪魔」と呼ばれ懸賞金をかけられました。戦争は国を守るという大義名分の元に、一国民の人生を狂わせました。戦争のいちばんの被害者はいつだって最前線に立つコモン・マン=「普通の人」なのです。この作品を観て米軍のプロパガンダだと思える人の気持ちが私には全くわかりませんでした。

2020.4.29.  むびめしこ 

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