「ザ・ファイブ・ブラッズ」の 評価・作品情報・人種差別について

「ザ・ファイブ・ブラッズ」の
評価作品情報人種差別について感想

「ザ・ファイブ・ブラッズ」のムビメシュラン評価5

 長年黒人差別について鋭く社会を切り取って作品を制作してきたスパイク・リー監督のこの作品がこの時期に公開というのはもう、運命とか宿命なんて言葉では言い表せないタイミングです。さらにもしこれがNetflix作品ではなく劇場公開作品だったら(コロナ渦の影響で)我々は観ることすらかなわなかったかもしれません。もう奇跡としか言いようがないのでは?観るしかない。そんな作品です。全ての奇跡を含めて星5つです。

「ザ・ファイブ・ブラッズ」の作品情報

<日本公開年月>
2020
6
<スタッフ>
監督:スパイク・リー
脚本:スパイク・リー、ダニー・ビルソン、ポール・デ・メオ 
<出演>
デルロイ・リンドー
ノーム・ルイス
クラーク・ピータース
<あらすじ>
 ベトナム帰還兵の4人(ポール、エディ、オーティス、メルヴィン)はもう1人の仲間ノーマンの遺骨と埋蔵金を回収するべく、再度ベトナムを訪れた。戦場での過酷な体験がフラッシュバックしたり、過酷なジャングルに分け入ることは覚悟の上だったが、4人がベトナムで目の当たりしたのは想像以上のものであった。ベトナム戦争がもたらした災禍は今もなお現地の人々を苦しめていたのである。

「ザ・ファイブ・ブラッズ」の背景

ベトナム戦争とは

 ベトナム戦争は宣戦布告が行われず、戦争の開始時期については諸説あります。アメリカ合衆国率いる資本主義・自由主義陣営と、ソビエト社会主義共和国連邦率いる共産主義・社会主義陣営との間に、第二次世界大戦後に生じた対立(いわゆる冷戦)を背景とした代理戦争でもありました。ベトナムはこれらの介入により南北に分断されその後約20年にも及ぶ泥沼の戦争へ巻き込まれることになります。
 ベトナム戦争を題材とした作品は本当にたくさんあるのですが、本作品は明らかに「地獄の黙示録」のへのオマージュと思われるシーンがたくさんありました。(「ランボー」に対するご意見はスパイク・リー監督ならではのエッジの効き具合で思わず声に出して笑ってしまいました。)

ベトナム戦争における黒人の割合

 「ベトナム戦争当時の米国の人口における黒人の割合は11%なのに、ベトナム派遣軍では32%にも及ぶ」とは本作品からの引用です。これはかならずしも黒人が無理矢理徴兵されていたわけではありません。
 非常に大雑把な分類になりますが、当時の米国における社会的弱者は①アフリカ系アメリカ人、②貧困層の白人、③中南米系の(違法)移民の3つに分けられました。これは現在に至るまで大きな変化はないと思われます。これらに属する青年がベトナムで戦った理由に、生活の安定、大学へ行くための奨学金、そしてアメリカでの市民権獲得などがありました。
 当時はまだ徴兵制があったので、政治家の息子や金持ちの息子にももちろんベトナムへ行く義務がありました。しかしそのほとんどがコネや金の力で安全な後方での任務に就きました。こういった時代背景や社会的状況が重なり、上記の様な状態が作り出されたと思われます。

黒人にとどまらない様々な差別

 現在(20206月)世界中は新型コロナウイルスのニュースとともに、米国で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に押さえつけられて死亡した事件をきっかけにブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter、通称「BLM」)を叫ぶ動きが再燃しています。このBLMはそもそも20132月に黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警官のジョージ・ジマーマンに射殺された事件に端を発するもので、SNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグが拡散されました。 非常にセンセーショナルかつショッキングな事件だったこともあり世間の目は「黒人差別」に目が向けられていますが、世界で生じている差別は「白人による黒人人種差別」だけではありません。黄色人種、黄色人種のコミュニティの中の黒人ハーフ、性産業に携わる人々それぞれに向けられる目。常に黒人差別を主題に作品を作ってきたスパイク・リー監督ですが、これらの社会的弱者に向ける繊細な視点も忘れません。世界中の誰もが差別をする側、される側のどちらにもなりうるのだという事実をグサグサと抉り取って我々に突きつけます。必ずしも弱者を聖人君主として描かない姿勢は私がスパイク・リー監督を好きな理由の一つです。

過去の作品について

 米動画配信サービス「HBOマックス」は人種に対する偏見を含んでいるとして、1939年公開の映画「風と共に去りぬ」の配信を停止しました。奴隷制度を正当化していると、かねてより指摘はありましたが今回のBLM騒動に煽りを受けたのでしょう。さらにいじめられっ子の白人少年が黒人のおじさんに元気をもらうという「南部の唄」が「当時の黒人奴隷と白人の関係を美化している」との意見からこの作品を基にしたディズニーランドの人気アトラクション、スプラッシュマウンテンすら槍玉にあがっています。
 ところで「ティファニーで朝食を」における日本人ユニオシの表現は許されるのでしょうか。よその国のよその人種の件についてハッシュタグをつけて拡散するメッセージは多く見かけますが、このことにSNS上で声をあげる日本人はいまのところみかけません。

 さて、私はこの過去の「失敗」をなかったことにする様なこの流れに決して賛同しません。もちろん作中の差別表現や事実にそぐわない美化した表現を賞賛するわけではありません。映画とは時代を映し出す鏡です。当時の時代背景を感じられるそういった表現も全てひっくるめて芸術、エンターテイメントなのです。人種差別をしていたこと、それをジョークの種にしていたこと、さらにそれらを良作として称えていたこと、これら全てを恥ずかしい歴史として学んでいくことこそが同じ過ちを繰り返さない為の手立てだと私は考えます。
 というわけで、さきほど述べた「ティファニーで朝食を」について私は配信停止をすべきだとは全く思いません。むしろもっと多くの若い方に観てもらいたいと思っています。かの有名な美人女優オードリー・ヘップバーンが主演を務めた有名な作品の中にも人種差別がはびこっていたという事実をもっと多くの人に認識していただきたいのです。

「ザ・ファイブ・ブラッズ」の感想

 ダニー・ビルソンとポール・デ・メオが2013年に脚本を書き上げた段階では、本作の主人公は白人のベトナム帰還兵という設定だったそうです。2017年に脚本を読んだスパイク・リー監督は脚本に惚れ込みましたが、「多くの黒人がベトナム戦争に従軍していたにも拘わらず、彼らに焦点を当てた作品がほとんどないのは何故か」という問題意識を持っていたため、主人公を黒人のベトナム帰還兵に変更することにしたそうです。初めて#BlackLivesMatterというハッシュタグがSNSに溢れた年に、この脚本の原案が出来上がり、紆余曲折を経てスパイク・リー監督の手によって生まれ変わったこの作品がこのタイミングで(しかもコロナ渦で劇場公開作品では公開されなかった可能性もある!!)世に送り出されたのはまさに奇跡としか言いようがないのではないでしょうか。

 スパイク・リー監督の得意とする実在の映像を織り交ぜて観客を一気に作品に引き込む手法、センスのいい選曲、毒舌すぎる登場人物、ブラックユーモアすら感じる残虐なシーン、フランス人のジャン・レノをトランプ大統領に見立てるシニカルな表現、全てが完璧な作品でした。

2020.6.16. むびめしこ

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