「タクシードライバー」の評価・解説・食事シーン・感想

「タクシードライバー」
評価作品情報解説食事シーン感想バックミラーで見たものとは

 

ムビメシュラン評価4

 かつてこの作品に共鳴する若者が多く存在したことは、この時代がいかに病的であったかを物語るでしょう。舞台はベトナム戦争後のニューヨーク。帰還兵トラヴィスは戦争で植えつけられた大義名分のために殺人を正当化する価値観を持て余し、社会に苛立ちを募らせます。アメリカンニューシネマ末期の代表作と言われる作品です。ベトナム戦争がアメリカ国民の心に深く刻んだ傷を描きます。

 

「タクシードライバー」の作品情報

<日本公開年月日>
1976年9月
<スタッフ>
・監督:マーティン・スコセッシ
・脚本:ポール・シュレイダー
<出演>
ロバート・デ・ニーロ
シビル・シェパード
ハーヴェイ・カイテル
ジョディ・フォスター
<あらすじ>
 ベトナム戦争の帰還兵であるトラヴィスは深刻な不眠症を患っています。ようやく就いた仕事はタクシーの運転手でした。深夜のニューヨークを走りながら目に入る娼婦、ジャンキー、ギャングといった腐敗に加え、自身の失恋が重なり厭世観をつのらせます。そんなトラヴィスが行き着く先とは。

▼▼<ネタバレを含みます>▼▼

ベトナム戦争後のアメリカとは

 アメリカがベトナム戦争から撤退したのが1973年ですから、本作品は戦後間も無く公開されたことになります。戦地では敵を殺すことで評価された兵士たちが久しぶりに母国に帰還し目にしたのは、戦争反対運動と腐敗した政治に対する諦念から麻薬や犯罪に溺れる人々でした。戦争体験でPTSDを患い、自身の生きる目的や居場所を見失った帰還兵はたくさんいたといいます。本作品で詳細は語られませんがおそらくトラヴィスもそんな一人だったのでしょう。

忘れられない戦争中の価値観

 殺人に大義名分を与えて正当化するのが戦争です。自分自身の価値観を大きく変換しなければ戦場で生き残ることはできないでしょう。そしてこの戦争体験は戦争が終わったからといってすぐに忘れられるものではありません。

受け入れられないことへの失望

 しかしそもそも戦闘が行われていなアメリカ本土に暮らす人々の間にはそのような価値観はなく、トラヴィスは社会に溶け込むことができません。初めは失恋したアヴィに憎しみを抱き、次は彼女が応援していた大統領候補のパランタイン氏に殺意を抱きますが失敗に終わります。そこで出会ったのが12歳にして売春をする家出少女アイリスでした。

 

「タクシードライバー」のこのシーンいただきます!
〜アイリスの食べるジャムトーストのシーン〜

 今日切り取るのは、トラヴィスがアイリスをカフェに連れ出し、娼婦をやめて家に帰るよう説得するシーンです。定職にもつかずポルノ映画館に入り浸るトラヴィスがアイリスに対して家に帰り学校にきちんと通うように説得しますが相手にされません。アイリスはパンを齧りながら「自分のことを鏡で見たことがあるのか。」と問いますがトラヴィスは言葉に詰まります。
 トラヴィスはアイリスを諭すことを諦め、アイリスの胴元であるスポーツへ話を移します。スポーツがいかに腐敗した人間であるか、そして自らがアイリスを救い出す救世主であることを説きます。トラヴィスにとって殺人を犯す最高の大義名分が得られた重要なシーンでした。

アイリス救出作戦実行

 トラヴィスはついにアイリスが働く売春宿に乗り込みスポーツや用心棒を立て続けに射殺します。この事件でトラヴィスは腐敗した社会で自分にしか理解できない正義を貫くアンチヒーローとなり、そのまま銃口を自身に向け絶命するはずでした。しかし弾はすでに切れており、蓋を開けてみれば家出した売春少女を救ったヒーローとして扱われてしまうのでした。

期待外れのヒーロー扱い

 この扱いはトラヴィスにとって望んだ展開ではなかったでしょう。人殺しが悪であるという非常に当たり前の評価を受けていたならばトラヴィスの精神は正常に戻ったかもしれません。しかしベトナム戦争を非難する一方で、大義名分を盾にトラヴィスの人殺しを正当化した矛盾にトラヴィスは混乱します。そしてこの矛盾を抱えた社会に絶望するのと同時に、歪んだままの自分の居場所をこの社会に見出したのです。事件後、仕事仲間やアヴィと今までよりも社交的に会話するトラヴィスの姿からそれが推察できます。

バックミラーで何を見たのか

 そして有名なバックミラーのラストシーンです。トラヴィスは視界に何かを捉えましたがそれが何か分からないまま作品は終わります。バックミラーは通常背後からくる危険を察知するツールですから、トラヴィスが何か危険を感じたことのメタファーであることは間違い無いでしょう。大量殺人という犯罪を犯したトラヴィスを今まで以上に親密に受け入れた仕事仲間やアヴィにとてつもない違和感を感じつつも、今日もトラヴィスは夜の街をタクシーで走り続けるのです。

 

この作品が好きかと問われれば

 ストーリーに一貫性があるわけでもなく、主人公の心情に共感できるわけでもない本作品、好きかと問われると答えに困窮します。しかし印象的な作品であることは間違い無いでしょう。それは銃撃後のトラヴィスが指鉄砲を自分に向けるシーンで血の匂いが香ることが証明しています。比喩ではなく、本当に臭うのです。鼻血が出てきたのかと錯覚しました。視覚と聴覚への刺激から嗅覚が刺激されるという作品は決して多くはないでしょう。

 

2020.3.10.  むびめしこ

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